#dearMoon
「月に行く人たちにピース&ラブを捧げるよ」
リンゴ・スター (元ザ・ビートルズ)特別インタビュー
Feb 7, 2019
全世界的なムーブメントとなった映画『ラ・ラ・ランド』(2016)のデイミアン・チャゼル監督と主演のライアン・ゴズリングが再タッグを組み、人類史上<初めて>月面着陸・歩行に成功した宇宙飛行士、ニール・アームストロングの偉業と代償を描く衝撃作『ファースト・マン』が、いよいよ日本でも公開となる(2月8日公開)。
時を同じくして、日本の起業家・前澤友作が、2023年に民間人として<初めて>月周回旅行を計画、超一流のアーティストとともに384,400km離れた月へと向かう準備を進めていて、世界的な関心ごとになっている。そして、この革命的なアートプロジェクト<#dearMoonプロジェクト>は、チャゼル監督とゴズリングの耳にも届いていた。
前澤友作 (以下、MZ) :『ファースト・マン』とても美しい映画でした。
チャゼル :ありがとうございます。わたしも前澤さんが (月で) 撮る写真、楽しみにしていますよ。
MZ :ありがとうございます!
ゴズリング :もちろん、カメラを持って行くんですよね?
MZ :もちろんです。
ゴズリング :カメラは絶対持ってくべきですよね。
MZ :お二人の映画、とにかく美しかった。素晴らしかったですね。特に、映画の中のシーンで、月面着陸した時にハッチが開いて、その時15秒くらい沈黙がありますよね。そこが特に素晴らしい。
あの手の映画で、そういう無音状態が続く映画ってほかにないですよね?月って本当に、あのような無音なのでしょうか?
前澤友作 :日本の実業家。ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営する株式会社ZOZOの代表取締役社長。現代アートの普及活動及びアーティスト活動支援を目的とした公益財団法人現代芸術振興財団の会長。民間人で初となる月周回計画を発表した。
ゴズリング :僕たちは実際には行っていないので分からないですよ。前澤さんは実際に月に行くけど、僕たちは行ったフリをしただけなので(笑)。
MZ :そうでしたね(笑)。
チャゼル :アトランタの近くの採石場に行って撮影していたので、実際には機材もいっぱいありましたし、結構うるさかった。ただ、その15秒間については、宇宙に行く、月に行くとこういう感じなんじゃないか……そういうことを伝えるのは、自分のするべきことだと思っていて、それを映像だけで語ってみたかった。
月に近づいたり、月に着面したりしたその瞬間は、素晴らしい瞬間なので、その瞬間だけに集中できるよう、その他の物はすべて排除し、しかも、それを映像だけで語ってみたかったんですね。
MZ :あの瞬間は、息をのみましたよ。お腹が鳴ったらどうしようかなと思ったぐらい(笑)。たぶん映画館で何百人の人が観た時の、あの静けさは楽しみです。
チャゼル :観客に初めて映画を観せたとき、「その瞬間の音を消したの?」って実際に言われました。
デイミアン・チャゼル (監督・製作) :主な監督作品に、アカデミー賞3部門を受賞した『セッション』(2014)、6部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』(2016)がある。今後はNetflixやApple TVのドラマなどでも監督・製作総指揮を務める予定。
MZ :実際は何秒なんですか?
チャゼル :前澤さんがおっしゃった通り、たぶん15秒ちょっとかもしれないですが、それほど長くはないですね。そういう瞬間がこれまでの映画にはなかったと思うので、特に長く感じると思います。
MZ :いろいろなスタッフと一緒にこの映画を観ましたが、周りのスタッフは、僕が月に行くことに対して本当に大丈夫なのかと、映画を観て不安に思っていたようです。 でも、むしろ僕自身はワクワクしましたね。こんな面白そうな体験ができるのかって。
チャゼル :前澤さんは月に行くべき人なんですよ。僕たちは地球に残った方がいいですね。
MZ :するとおふたりは、仮に月に行けるとしても行かない?
ゴズリング :僕らは足手まといになってしまうかと。間違ったボタンを押したり、機械を壊しちゃうかもしれないので、月に行かない方が前澤さんにとってもいいことだと思う(笑)。
ライアン・ゴズリング (俳優) :『ラ・ラ・ランド』(2016) で、アカデミー賞主演男優賞にノミネート、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞。主な主演作品に、『ドライヴ』(2011)、『ブレードランナー 2049』(2017) など。本作では、主役のニール・アームストロングを演じる。
チャゼル :僕もライアンと同じ気持ちです。ただ、窓から見る壮大な景色は、見てみたい。月を近くで見るって、どういう感覚なのかは、今回の映画で再現しようとしましたが……ただ、それはやはり再現する上での想像でしかないですからね。
本当に、近くで見るということは素晴らしい体験だと思うので、そこには、ジェラシーを感じます。
ゴズリング :月に行くには、どんなトレーニングが必要なんですか?
MZ :まだ具体的には決まっていないですが、そこまで長い期間行うものではなくて、簡単なものになる予定です。たぶん数カ月もかからないくらいですね。
ゴズリング :数か月後に始めるんでしょうか? それともトレーニング期間が数か月という意味?
MZ :おそらく2023年に入ったくらいに始めるイメージですね。
僕たちは民間旅行者でトレーニングが何か月もかかるようだと、僕に続く人たちが簡単に行けないから、ほとんどトレーニングなしで将来は行けるようになると思います。
ゴズリング :8人を一緒に連れていくんですか?
MZ :たぶん8~10人です。ひとりかふたり、宇宙飛行士を一緒に連れて行った方がいいと思っています。
チャゼル :8人~10人プラス、宇宙飛行士ふたり?
MZ :合計で10人、だいたいそうですね。
ゴズリング :宇宙飛行士を連れて行ってもらって嬉しいです。いるときっと助かりますよね。
MZ :どういう宇宙飛行士がいいですか?もうニール・アームストロングさん (1930-2012。宇宙飛行士) はいないから。
ゴズリング :アル・ウォーデンさん (1932-。宇宙飛行士) は行けるね。
チャゼル :アル・ウォーデンさんは、もう一回行きたいと思いますね。マイケル・コリンズさん (1930-。宇宙飛行士)も、もう一回行きたいと思っているかもしれないですね。 デイヴィッド・スコットさん (1932-。宇宙飛行士) も。まだ行きたいと思っている宇宙飛行士は、けっこういると思いますよ。
MZ :スコット・ケリーさん (1964-。宇宙飛行士) はご存知ですか?
チャゼル :知っています。最近フロリダでお会いしましたね。一カ月前に。彼と話せてすごくよかったです。
MZ :僕が月に行く計画の発表をしたら、スコット・ケリーさんから連絡がきて、僕は「I'm ready!」みたいな (笑)
ゴズリング :いいですね!
チャゼル :すごい (笑)。そうですね、彼と彼の体験。宇宙でずっと過ごしていた体験についてうかがって、素晴らしいなと思いました。彼の視点からいろいろとアドバイスいただきました。ミッションの歴史も教えてもらいましたが、ニール・アームストロングさんや、その時代の人たちに感銘を受けて、彼が歴史を変えていった。
ゴズリング :彼をフォトグラファーとして連れて行くことも一案かと思います。とても美しい写真を撮られるので。
チャゼル :地球を周回している間に彼は、国際宇宙ステーションから素晴らしい写真を撮っていましたね。
MZ :映画『セッション』も観ました。もちろん『ラ・ラ・ランド』も。僕は昔、ドラマーだったんですよ。
チャゼル :知っています!
MZ :バンドをやっていました。
ゴズリング :いいですね!
MZ :あなたも?
ゴズリング :昔、やっていました。
チャゼル :僕もドラマーでした。
MZ :ドラマーだった?
チャゼル :そうです。同じ質問をしようと思っていました (笑)。時間があまりないので、たまにしか今はプレイしないんですが、本当はやりたいです。前澤さんは?
MZ :いやいや (笑)
ゴズリング :ジャムセッションをやった方がいいような気がします。
チャゼル :3人でジャムセッションをやった方がいいですね!
MZ :いいですね!
チャゼル :宇宙でやったらどうですか? 素晴らしいジャズミュージシャンを連れて行って、月を観ながらアドリブでジャムセッションをして (笑)。
ゴズリング :今回の体験は全部撮影して、ドキュメンタリーみたいなものを作るんですか?
MZ :もちろんです。だから僕は、フィルムディレクターを探しているんです。
ゴズリング :そうですよね。あと、音も重要ですよね。月に行った宇宙飛行士とは、まだ実際にお話はされていないのですか?
MZ :まだですね。バズ・オルドリンさん (1930-。宇宙飛行士) とは会って、お話ししてみたいです。
ゴズリング :アル・ウォーデンさんもお会いするといいかもしれないですね。
MZ :お会いしたことはありますか?
ゴズリング :彼は、映画のアドバイザーを務めてくれました。
チャゼル :映画に携わっていた方でライアンが必要な時に「僕が月に行ったときは……」って、ちゃんと言ってくれる人です。
「左腕じゃなくて、僕は右腕を使ったよ」といった感じで、撮影中に具体的なアドバイスをもらえました。前澤さんも数年後、そういうことを言える人になるわけですね。言える方って少ないですよ。
ゴズリング :彼は、カプセルでルーナーモジュールが月面着陸する際に、ずっと月周回していた方なんです。
チャゼル :前澤さんも似たような体験をされるかもしれないですね。月周回をする間に月の景色を見るっていう。
ゴズリング :上手く説明できないけど、月と地球の影は銀河で最も暗い場所だって彼が言っていました。前澤さんも、その体験ができますね。
ゴズリング :前澤さんの計画では、月にどれくらい近づく予定ですか?
MZ :一番近づけて、100キロですね。
チャゼル :近いですね!
ゴズリング :すごい!
チャゼル :地球に戻ってくる前に、どれくらい周回するんでしょうか?
MZ :1回で帰ります。3日かけて行って3日かけて戻ってくるっていう。だから約6日でしょうか。
チャゼル :月に行って1周まるごと周回する? それとも半周くらい?
MZ :8の字ですね。アポロ8と一緒のルートです。
#dearMoon フライトプラン
ゴズリング :カプセルってどんな感じなんですか?
チャゼル :デザインはご存知ですか?
MZ :けっこう広くなる予定です。リビングルームがあるくらい広い。SpaceXの「BFR」……「スターシップ」に名前が変わりましたが、それで行くことは決まっていて、かなり広くて、個室ももしかしたら作れるかもしれない。
チャゼル :窓も大きい?
MZ :大きい窓がたくさんあります。今までなにかロケットの打ち上げを見たことがありますか?
チャゼル :監督するにあたって、ファルコンXの打ち上げを見に行ったんですが、急遽その前日に出なければいけなくて、結局、直接は見られなかったんですよ。なのでアトランタで撮影していた最中、撮影を中断しその生中継を観ました。もちろんほかの打ち上げも映像としては観たことがありますが、実際に生で観たことはないですね。前澤さんは?
MZ :ファルコンヘビーの打ち上げは観ました。映画で音を使っていますね?
チャゼル :そうですね。サウンドチームがファルコンヘビーのチームに何回か行って、マイクを設置して録音しました。
ゴズリング :もちろん幸運を祈っていますけれども、あまりにも壮大な話なので現実味がないですよね(笑)。僕たちも映画を撮影しながら本当にちゃんと理解するっていうことは難しいなと思っていました。前澤さんが実際に月に行くのは本当に夢のような話です。それは、自分たちの体験をさらに超えて行くようなお話なので、ぜひ素晴らしい体験をしてほしいです。前澤さんたちが撮影してきた映像を観たいなと思います。
MZ :ありがとうございます!
チャゼル :一回戻ってきた時に、是非このインタビューの続編をやりたいですね。
MZ :自分じゃダメなの?
ゴズリング :自分でやるんですね (笑)
MZ :一生懸命練習します (笑)。チャゼルさん、宇宙に行く最初の映画監督になりませんか?
チャゼル :……優しいお言葉ありがとうございます。ちょっと考えさせてください。妻と相談してみます。あまり、家族のなかでも決定権がないので、でもありがとうございます。
行くか行かないかは別として、わたしは前澤さんのプロジェクトは、素晴らしい特別なものだと思っています。これまで月に69年、68年~72年まで人を月に送り込むという努力がなされてきて、それから50年間誰も月に戻っていないので、数年後に前澤さんが行き、それをきっかけに継続的に次の世代の人が月に行くことができれば素晴らしいことだと思います。
前澤が映画『セッション』(2014) のファンであり、全員がドラマー経験もあるという話題にも華が咲いて終始、旧友の再会のようにリラックスしたムードで進行した本収録。その一方で、映画で描く時代の差こそあれど、映画『ファースト・マン』で人類が月へ行く偉業と、その代償を扱ったチャゼル監督とゴズリングが、リスクを恐れず実際に月へ行くことを決めた前澤を、リスペクトの目で見つめる姿が印象的だった。
映画『ファースト・マン』で描くコアは、宇宙飛行士たちによる命懸けの壮絶な宇宙体験。その前人未到のミッションを追体験した者たちの今回の交流は、早くも多くの人々にインスピレーションを与えることになるのかもしれない。
取材・文:鴇田崇 写真:上村明彦
人類の夢だった、人類初の月面着陸計画。この史上最も危険なミッションを、アポロ11号船長ニール・アームストロングの視点で描く。
映画『ファースト・マン』公式サイト